ハロウィンの終わりには、スイーパー達のたまり場であるバー・切り裂きジャックでアフターがある。オレ達も五人揃って店へ入ると、スタンディングのフロアで皆楽しそうに、ドリンクを片手にお互いの無事を祝っていた。闇とざわめきが心地よい。バーテンダーがオレ達の姿をみとめ、「何にする?」と尋ねる。

「〝知っての通り〟」 「僕も同じく」

ラストララバイとブラックスワンがオーダーしたのは「専用カクテル」だ。スイーパーの二つ名を冠し、その人柄やコールのイメージから調合されるもの。 Aランク以上であれば無条件、それ以下のランクでもキャラクター性がウケていたり相応の代金を支払えば手にすることができ(ラストララバイはランク特典、ブラックスワンはキャラ性と金だね)、「知っての通り(アズ・ユー・ノウ)」というのはオーダー時のお決まりの文句で、これを言いたいと憧れているスイーパーは結構多い。

「おっと、スイープ・ツインズ。この頃調子が良さそうだねェ。そろそろいい頃合いだと思ってるよ」 「そうね、あたしにぴったりのを頂戴」 「あー……オレはいいよ。チェリージュースが欲しいな、トニックで割ったやつ」

姉はバーテンダーの誘いを受ける。「ブルーテール」の名のカクテルが生まれるってわけだ。オレはなんとなく気恥ずかしいのと、お酒自体があんまり得意じゃないから乗らなかった。バーテンダーはそんなオレに気を悪くした様子もなく「そうかい」と笑い、ドリンクの準備にうつった。視界の端で、シェイカーの銀が瞬く。

各々の手にドリンクが渡り、お互いを労いながらオレ達はざわめきに混じり合う。今日あったとんでもないイベントの数々について一通り盛り上がったあと、自然といつもの仕事についての話になっていた。そんな中でふいに、ラストララバイはオレに投げかける。

「誰だって助けてほしいんだ。私は、そう思ってる。そこは、キミと似てるところだよね」

そうかな?……うん、そうかも。と、オレは返す。ゴーストに対する心情の話だ。基本「誰にでも弱さがある」というスタンスでいる点で、確かにオレとラストララバイは近いところにいるのかもしれない。とはいえ彼女の強靭な精神と、だからこそ発揮できるのであろう高い共感力は、スイーパーへの適正として申し分ないものだ。その上経験も豊富な彼女とオレの間には、あまりにも歴然とした差があった。故に、なんとも歯切れの悪い返答になってしまう。オレは慌てて「光栄だよ、クイーン」と付け足した。

「助けたい、なんて思ったことはないの。ただあたしにとって、美しいか、そうでないか、それだけ」

グラスを傾けながら言ったのは姉だ、ブルーキュラソーが海のように揺れている。なんとも彼女らしい答えだな、とオレは思った。己の美学にのみ従い、言ってしまえばそれに適わないものは取るに足らないと切り捨てる傲慢な彼女だからこそ、贈れる言葉があり、ウケる〝客層〟がある。なにかと下手に出て様子見するようなタチのオレとは、やっぱり正反対だ。双子でもね。

「僕としては〝助けてほしい〟から他者を害するような連中の相手はしたくない。だが、それが我々の仕事と言えばそうだ。ならば、とさっさと僕は諦めてこう考えることにした。皆、享楽だ。彼らは享楽で生者を殺め、僕は享楽で死者を送る。すべて戯言と思えば楽なものだ。だから僕は口先でいくらでも甘い夢を吐ける。そういうふうにやっているわけだ、僕はね」

カウンターに背を預け、陽気に皮肉を語る。内容についてはオレとしても正直な話、妥当なところだと同業者の立場で思う。でもオレはお前のことキライだし、深く言及するとかしたくないので、次。

「俺ァ大した考えはねェよ……。生き延びるために弾を撃ってる。それだけだな」

それでスイーパーをやってきて今まで生き延びてるんだから、君はある意味で実力者なんじゃないのか?と思わなくもない。いや、まあ、出会ったときは全然死にかけてたけどね。気まずそうに首元を掻くエンジェルボイスの様子を見て、オレは「らしいね」と少し笑った。彼はいたってシンプルで、オレはなんとなく彼の言葉に安堵してしまう。

会話のキリが良くなったところで、店の奥の方で歓声が上がる。そちらに視線を投げると、天井近くに設置されたいくつかのモニターに、「ハッピーハロウィン!今夜のスターはだーれだ?」という一文と、店のトレードマークのカボチャのキャラクターが表示されていた。デッド・ゲート・スコアレースの成績発表、その待機画面だ。グラグラと歯を揺らし笑うカボチャの上で、カウントダウンが進行している。

「いよいよだね?」 「そうだね……」

ラストララバイから小突かれ、オレはか細い声で応じる。リリィを救う手立てのひとつとして、ミス・エヴァーとの面会権を手に入れるためにランキングの上位に入ることが目標だったが、達成した自信はあまりない。胃のあたりをさすりながら神に祈るほかなくなっていた。ブラックスワンはそんなオレを面白そうに眺めて言う。

「君が毎年生き延びているのだって、奇跡に違いないだろう? 今更神は君を見捨てたりしないさ」 「あのさ。それ、悪口だよね」

ブラックスワンは失笑した。ちくしょう、お前なんか大ッ嫌いだからな。オレ達に呆れたようにして、姉が画面を指さす。ねえ、そろそろみたいだけど。彼女の言う通り、カウントダウンは残り10秒を切っていた。9,8,7,6……。キリキリと増していく胃の痛みに耐えるオレをよそに、店内の熱気はどんどん高くなっていく。5,4,3,2,1……。

デッド・ゲート・スコアレース 最終ランキング

1位 スターゲイザー  2位 ブラックドッグ  3位 ラストララバイ  4位 オールドローズ  5位 ナイトメア  6位 ブラックスワン  7位 トラップレディ  8位 ピンクスパイダー  9位 ストレイブルー  10位 ロストゲーム